本日、晴れて「学士」の学位を得た28名の皆さん、ご卒業おめでとうございます。新しい門出を心よりお慶び申し上げます。また、今日まで皆さんを支えてこられたご家族をはじめ、関係する皆様に、心より敬意を表します。
皆さんが福島大学で過ごしたこの数年間、私たちの社会は大きく揺れ動きました。
新型コロナウイルスによるさまざまな制約から、ようやく日常を取り戻した一方で、生成AIが急速に普及し、学び方や働き方も大きく変わろうとしています。世界では、ロシアによるウクライナ侵攻や中東での紛争が続き、平和が決して当たり前のものではないことを思い知らされました。国内でも大きな地震や豪雨災害が相次ぎました。
振り返れば、皆さんの大学生活は、それまでの「当たり前」が次々と問い直された数年間だったのではないでしょうか。
今日、そんな皆さんに一つの言葉を贈ります。
「自我作古(じがさっこ)」。
「我より古(いにしえ)を作(な)す」。前例にとらわれず、自ら新しい先例をつくる、という意味です。
これから皆さんが社会に出れば、教科書にもマニュアルにも答えが載っていない問題に、幾度となく出会うでしょう。そのとき、「前例がないから」と立ち止まるのではなく、「前例がないなら、自分たちでつくってみよう」と考えてほしいのです。
皆さんが学んだ福島は、まさにそれを続けてきた場所です。
東日本大震災と原子力災害の後、福島は誰も経験したことのない数々の課題に直面しました。初めから正解があったわけではありません。多くの人が悩み、知恵を出し合い、ときには失敗もしながら、一つひとつ目の前の課題に取り組んできました。その積み重ねが、今の福島につながっています。
福島大学で学んだ皆さんにも、すでにある正解を探すだけではなく、正解のない問いから逃げずに、自分で考える人であってほしい。そして、自分とは異なる考えや経験を持つ人の声にも耳を傾け、ともに答えをつくっていける人であってほしいと願っています。
これから先、迷うこともあるでしょう。思いどおりにならないこともあるでしょう。そんなときこそ、福島で学び、考え、さまざまな人と出会った日々を思い出してください。
皆さんが勇気をもって始めたことが、いつの日か誰かにとっての「前例」になるかもしれません。
それが「自我作古」です。
どうか、自分で考え、自分で選び、そして一歩を踏み出してください。
皆さん一人ひとりが、福島大学で学んだことを胸に、それぞれの場所で自分らしい未来を切り拓いていかれることを心から期待しています。
皆さんの未来に幸多からんことを祈念し、送別の辞といたします。
令和8年9月30日
福島大学長 佐野孝治