本日、晴れて「学士」の学位を得た29名の学士課程の皆さん、「修士」の学位を得た5名の大学院生の皆さん、ご卒業おめでとうございます。新しい門出を心よりお慶び申しあげます。
皆さんが本学で過ごした数年間に、国内外では大きな変化が相次ぎました。
ロシアによるウクライナ侵攻をはじめ、米中対立やNATOとロシアの関係などが、国際秩序や安全保障の構造を大きく揺るがす事態となっています。
また、温室効果ガス濃度の上昇や海洋の温暖化、自然災害の頻発・激甚化が顕著となり、各国で脱炭素化政策の強化が急務となっています。
さらに、先進国では出生率の低下と高齢化が進み、労働力不足や社会保障制度への負担増、税収の減少、地域社会の変容といった課題が深刻化しており、日本、とりわけ東北はその最前線に立たされています。
加えて、ディープラーニングや生成AIの急速な進展は、産業構造をはじめ社会の在り方を大きく変えるとともに、「人間とは何か」という根源的な問いを私たちに突きつけています。
後世の歴史学者や人類学者、環境学者、政治学者らがこの時代を振り返るとき、2020年代前半は、大きな転換点、あるいは変化の節目として特別な意味を持つ時代として位置づけられることでしょう。
世界は常に変化し続けています。それも予測不能で、複雑で、曖昧な方向へと加速度的に変わりつつあります。私たちが危機に直面するとき、人類の存在意義を問われ、ほんとうに大切なものは何か、守るべきものは何かを真剣に考える機会が与えられます。
今から14年前、福島は東日本大震災と原子力災害によって、悲劇の地として世界に知られることとなりました。交通網が寸断された中、福島大学の学生たちは、第一体育館の避難所で、身を寄せる人々の命を守りました。その中には、卒業式を迎えることができなかった4年生も大勢いました。
また、多くの学生たちは避難所や仮設住宅で子どもや地域コミュニティの支援に携わり、自分たちにできることを模索し続けました。震災の影響で県内就職を断念し涙を流した学生、子どもたちを放って自分だけが県外に出ることはできないと、身を粉にしてボランティアに励んだ学生――その姿を決して忘れることはできません。
震災は今も完全に収束したわけではありません。農産物の輸出は制限を受け続け、アルファベットの"Fukushima"が世界から消えることはありません。本日卒業する皆さんには、この福島で学んだ意味、そして福島大学を卒業する意義を改めて考えてほしいと思います。
福島は「21世紀的課題が加速した地域」ともいわれています。福島が抱える問題に、既存の公式から導き出される解答は存在しません。複雑に絡み合う現実を解きほぐし、新たに解決策を創り出していくしかないのです。
明日から始まる新しい生活の場で、「福島大学で何を学んできたのか」と問われたとき、皆さんは何を語ることができるでしょうか。ぜひ自分自身に深く問いかけてください。
これからの皆さんが、福島大学での学びを誇りとして、それぞれの場で活躍されることを祈念し、送別の辞といたします。
令和7年9月30日
福島大学長 三浦浩喜