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福島大学

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令和6年度(3月期)福島大学学位記授与式「学長送別の辞」

 本日、晴れて「学士」の学位を得た908名の学類生の皆さん、「修士」の学位を得た138名、「博士」の学位を得た2名の大学院生の皆さん、ご卒業おめでとうございます。新たな門出を、心よりお慶び申し上げます。
 本年は、大学院・地域デザイン科学研究科、食農科学研究科、教職実践研究科の初の修了生を出した年として、福島大学の歴史に新たな1ページが加わりました。


 思い起こせば、4年前の入学式は、新型コロナウイルス感染拡大の最中で、密を避けるために三部に分けて開催されました。それが、今日、コロナ禍前の形で学位記授与式を挙行できますことを、共に喜びたいと思います。
 皆さんは、コロナ禍で断絶した人とのつながりや学生文化を再生させる役割を担う世代として、困難に直面しながらも誠実に学業を積み重ね、それぞれの分野で成果を上げ、こうして学位を手にされました。その努力に、心から敬意を表します。


 5年前、福島大学は「地域とともに21世紀的課題に立ち向かう大学」という目標を掲げました。その原点は、言うまでもなく、東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所事故にあります。

 14年前の今日、皆さんが今座っているこの第一体育館のフロアには、被災地・浜通りから、命からがら避難してきた百数十名が身を寄せ、ダンボールの仕切りが立ち並ぶ避難所となっていました。大学の意地にかけても、避難者に冷たいものは食べさせない----そう決意し、毎日温かい食事を作り続け、教職員と学生とが一丸となって避難者の命を守りました。工夫を凝らした避難所運営は、被災者から「日本一の避難所」と呼ばれるほどでした。
 避難所のスタッフは、教職員に加え、公共交通機関が寸断され、自宅に戻れなくなった約70名の学生でした。その中には、皆さんと同じように、3月25日に晴れ姿で卒業式を迎えるはずだった4年生も大勢いました。  彼ら彼女らは10日間も風呂に入れないまま、就職先のアパートも探しに行けないまま、避難者の支援を続けていたのです。


 本学では、原発事故からの復興という難題に挑戦する取り組みが次々と生まれ、それが現在の福島大学へとつながっています。言い換えれば、被災者の人間性を守るために懸命に積み重ねられてきた無数の努力こそが、福島大学の姿そのものであると言えるでしょう。


 さて、皆さんの在学中に起こった最も重大な出来事は、3年前に始まったロシア軍によるウクライナ侵攻、そして2年前の10月、「報復」の名の下に始まったイスラエルによるガザ地区への攻撃、さらにはそこから派生した中東諸国の紛争です。
 第二次世界大戦後の1948年、国連は「世界人権宣言」を採択し、人々が享受すべき基本的人権と自由を定めました。その第一条には、
「すべての人は、生まれながらにして自由であり、尊厳と権利において平等である。人間は理性と良心を授けられており、互いに同胞の精神をもって行動しなければならない。」
と記されています。


 人は教育を受けることで、自らの運命を決定する自由と能力を手にします。しかし、それは決して自分にとって都合のよい利己的なものであってはならず、性別、言語、民族、宗教、政治的立場の違いを超えて、他者にも同じ選択と決定の自由があることを理解することが不可欠です。加えて、他者の立場を想像し、理解しようとする努力を通じて、人間としての尊厳を守り続けることが求められます。


 世界は常に変化し続けています。それも、予測不能で、複雑で、曖昧なものへと変わり続けています。大震災や気候変動と災害の頻発、そして今なお続く国家間の紛争による悲劇は、その典型です。
 大学で学ぶべき最も大切なことは、専門的な知識や技術と同じくらい、変化に柔軟に対応する力、そして「人間が人間であること」の普遍的な価値を理解し、偏狭なナショナリズムに陥らない自己省察の力だと、私は強く確信しています。


 この混乱した時代の中にあっても、すべての人が尊厳と平等を享受できる社会の実現を、決して諦めないでください。現実の力関係に屈することなく、平和な世界を想像し続けてください。
 震災・原発事故から14年が経ち、福島の復興は、福島だけのものではなくなりました。荒廃した国土の復興のあり方を学ぶためウクライナの人々が、また復興も道半ばの能登の人たちが、福島を訪れています。今や、社会再生の象徴として、世界へと発信するまでになった福島、ここで皆さんは学んできたのです。


 卒業生の皆さん、14年前に被災者の命を守るため、自らを顧みず支援を続けた学生たちの後輩として、福島大学が、過酷な経験を乗り越え、挑戦を続けてきた誇り高い大学であることを、どうか忘れないでください。 


 皆さんが福島大学での学びを糧に、元気に活躍されることを心から願い、送別の辞といたします。

令和7年3月25日
福島大学長 三浦浩喜

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