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福島大学

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令和6年度(9月期)福島大学学位記授与式「学長送別の辞」

 本日、晴れて「学士」の学位を得た20名の学類生の皆さん、「修士」の学位を得た3名の大学院生の皆さん、ご卒業おめでとうございます。新しい門出を心よりお慶び申しあげます。


 皆さんが在学していた年月をふり返ると、真っ先に思い出されるのは、新型コロナウイルス感染症が蔓延し、大学生活に様々な制限がかかったことです。世界的にも人流や経済の動きが止まり、もはや回復不能とも思えた世界情勢は、日本も含めた各国が経済再建に向けた取り組みを行い、デジタル、グリーンエネルギー、テクノロジー関連の産業を成長させ、経済の回復にこぎつけました。
 さらに、多くの国ではこの過程で、最低賃金の引き上げや労働者の権利保障が強化され、労働環境が向上しています。いつの時代も、私たち人間は、危機に瀕する度に新しいものやしくみを作り上げ、元に戻すに留まらない、以前よりもよりよい社会を形づくってきました。
 このような、パンデミック、経済的ショックを経験することで自らの脆弱性を見つけ、それを改善することで持続可能性や安定性を強化する、レジリエントな社会は、すべての国々の指標となっています。いうまでもなく、大震災と原発事故を乗り越えてきたこの福島は、その一つのシンボルとなっています。


 さて、昨年の8月と今年の8月は、観測史上最高に暑い8月となり、気候変動は、あらゆる人々に直接脅威をもたらすものとなっています。昨年、国連のグテイレス事務総長は「地球温暖化の時代から地球沸騰の時代」と言いましたが、人間の活動による地球への影響は「プラネタリー・バウンダリー」、すなわち「惑星の限界」を超えてしまったとも言われています。さらに、この間の変化は「グレート・アクセラレーション」とも呼ばれ、人間の活動による影響が、6500万年前に恐竜を絶滅させた隕石との衝突にも比較できるほどの、大きな変動を地球にもたらしている、と言う科学者もいます。


 私たちは豊かさ、安全と安心を求めて、新しいものをつくり、様々な活動を営んできましたが、それらは明らかに地球への負荷と反比例しています。国際的にSDGsなどへの取り組みが続いていますが、各国は経済競争や政治的な優位性を確保することを優先し、充分に機能しているとは言えません。
 おそらく、本質的な解決に結びつけるには、私たちの暮らし方やライフスタイルの変化に留まらない、文明のあり方そのものにまで大きく変革が求められているのだと思います。


 福島大学は全国で唯一、大震災と原発事故を経験した大学です。13年前、金谷川周辺のインフラの多くが地震によって機能しなくなり、原発事故によって多くの方々がこの周辺に避難し、本学にも避難所が設けられました。そこから、学生と教職員による避難所の運営が始まり、各種ボランティア活動が始まり、様々な組織や研究が始まり、今日に至っています。本学は、まさに先の見えない混乱の時代を乗り越えてきた大学なのです。


 卒業していく皆さん、この福島大学で学んだことは、決して薄っぺらな知識や技術ではなく、これからの変化の激しい社会に必要な、レジリエントな知識であり技術であったかと思います。明日から、これを羅針盤にして大海に漕ぎ出し、大波を乗り越え、新天地を見つけてもらいたいと切に願います。
 素晴らしい航海を期待します。

令和6年9月30日
福島大学長 三浦浩喜

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