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福島大学

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令和5年度(3月期)福島大学学位記授与式「学長送別の辞」

 本日、晴れて「学士」の学位を得た928名の学類生の皆さん、「修士」の学位を得た93名、「博士」の学位を得た2名の大学院生の皆さん、ご卒業おめでとうございます。新しい門出を心よりお慶び申しあげます。


 新型コロナウイルスの感染拡大の最中に合格が決まり、入学式が中止となり、授業は自宅でのオンラインで、仲間もできず、大学生という実感もなく始まった皆さんの学生生活。あれから4年の年月が流れ、コロナ禍前と同じ本来の形でこの学位記授与式を挙行できましたことを、すべての皆様と共に、喜び合いたいと思います。
 他のどの世代よりも過酷なハンディキャップを乗り越え、誠実に学業を積み上げ、それぞれの分野で業績を上げて学位記を手にした皆さんを心から讃えたいと思います。


 4年前、福島大学は「地域とともに21世紀的課題に立ち向かう大学」という目標を掲げました。
 その原点は、いうまでもなく、東日本大震災と、東京電力福島第一原子力発電所事故です。
 13年前の3月のこの日、皆さんが今座っているこの第一体育館のフロアには、被災地の浜通りから命からがら避難してきた百数十名が身を寄せる、ダンボールの仕切りが立ち並ぶ避難所でした。本学は、全国で唯一、避難所を設置した国立大学となり、教職員と学生とが一丸となって避難者の命を守りました。大学の意地にかけても、避難者に冷たいものは食べさせない、と毎日温かい食事を作り続けました。避難所を運営していたのは、教職員の他に、公共交通機関が寸断されて自宅に戻れなくなった70名ほどの学生でした。その中には、3月25日に、皆さんのように晴れの姿で卒業式を迎えるはずだった4年生も大勢いました。10日間も風呂に入れないまま、就職先のアパートも探しに行けないまま、避難者のお世話を続けていたのです。


 あれから13年が過ぎ、今年の3月11日には、元日の大地震で被災した能登半島に向け、本学の災害復旧ボランティアチームが出発しました。先に震災を体験した福島大学ならではの、被災者に寄り添った支援を行い、チームは立派に目的を果たしてくれました。


 さて、皆さんの在学中、コロナ禍以外で最も重大な出来事は、2年前に始まったロシア軍によるウクライナ侵攻、そして昨年10月、「報復」の名の下に始まったイスラエルによるガザ地区への攻撃です。これらの悲惨な映像は、リアルタイムに世界に発信されています。こうした戦争の根底に共通に流れているのは、利己的なナショナリズムだと思います。
 第二次大戦後の1948年、国連は、人々が享受すべき基本的人権と自由を定める「世界人権宣言」を制定しました。その第一条では、「すべての人は生まれながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利とについて平等である。人間は理性と良心とを授けられており、互いに同胞の精神をもって行動しなければならない。」とされています。


 人は教育によって、自分の運命を決める自由と能力とを授けられます。しかしそれは自分だけに都合のいいエゴイスティックなものであってはならず、性別や言語、民族、宗教や政治的立場の違いを超えて、他者も同じように選択と決定の自由を持っているという認識と、そして、他者の立場を理解しようとする想像力を駆使して、互いに人間であることの尊厳を守る努力が求められます。


 私たちはこの間に、コロナ患者への差別的な態度、大震災被災者への理不尽な言動を経験してきました。いずれもが偏狭なナショナリズムからくる人間の弱さによるものです。現代社会にあって、人は常に人権の理念に基づき、自己と他者に対する責任を持つことで、社会的な結束と共生を実現することができるのだと思います。


 世界は常に変化し続けています。それも予測不能で、複雑で、曖昧なものに変化し続けています。大震災や新型コロナウイルス、現在も続くウクライナやガザ地区の悲劇などはその典型です。
 大学で身につけるべきより大切なものは、専門的な知識や技術と同等に、この変化への柔軟な対応力と、人間が人間であることの普遍的な価値認識、偏狭なナショナリズムに気づく省察力だと、強く確信しています。


 社会に出て行く多くの皆さん、この混乱した現代社会にあっても、すべての人々が尊厳と平等を享受できる社会の実現をあきらめないでください。現実の力関係に負けず、平和な世の中をイメージすることをやめないでください。それが、コロナ禍を克服し乗り越えてきた卒業生の皆さんへのお願いです。


 結びに、皆さんは、13年前に、被災者の命のためにわが身を省みず頑張り抜いた学生たちの後輩であること、福島大学は、そうした過酷な経験を乗り越えて、新しい挑戦をし続けてきた誇り高い大学だということを忘れないで下さい。


 これからの皆さんが、福島大学での学びを糧にして、元気にご活躍されることを祈念し、送別の辞といたします。


令和6年3月25日
福島大学長 三浦浩喜

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