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福島大学

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令和5年度(9月期)福島大学学位記授与式「学長送別の辞」

 本日、晴れて「学士」の学位を得た17名の学生の皆さん、「修士」の学位を得た2名の大学院生の皆さん、ご卒業おめでとうございます。新しい門出を心よりお慶び申しあげます。


 この福島大学で学んだ年月をふり返ってみると、多くの歴史的な転換点が思い起こされます。

 毎日の学習や研究、サークル活動や就職活動などの多くの面で、大学生活に影響を与え続けてきた新型コロナ感染症が、今年5月に5類感染症に移行し、3年以上続いた様々な制約がなくなりつつあります。このキャンパスでも、学生たちの屈託のない笑顔があふれるようになってきましたが、残念ながら、コロナとのたたかいは完全になくなったわけではありません。


 また、ロシア軍によるウクライナへの侵攻はすでに1年半が経過し、エネルギーや食糧、経済における安全保障問題へと広がり、現在、私たちの足元を不安定にする事態となっています。ウクライナでは既に復興に向けた動きも始まっており、震災や原発事故を経験した福島にも、支援の協力が求められています。


 そして、この夏、世界はかつて経験したことのない猛烈な暑さに苦しめられました。カナダやギリシャ、ハワイなどでの大規模火災、わが国でも気温が40℃に迫る日々が続き、国連のグテーレス事務総長は「地球温暖化」の時代から「地球沸騰」の時代に変わったと述べました。人間の活動によって気候変動がもたらされることはもはや疑う余地もなく、これ以上の深刻化を止めるためにも、私たちのライフスタイルそのものを変える努力がすべての人々に求められています。


 世界は常に変化し続けています。それも予測不能で、複雑で、曖昧なものへ、加速度的に変わりつつあります。私たちは危機に直面したときには、ほんとうに大切なものは何か、守るべきものは何かを真剣に考えるチャンスが与えられます。


 今から12年前、福島は東日本大震災と原発事故により、悲劇の地として世界中に知れ渡りました。福島大学では、交通網が寸断され、大学に取り残された学生たちは、国立大学で唯一開設された第一体育館の福島大学避難所で、避難所運営にあたりました。その中には卒業式を迎えることができなかった4年生の姿もありました。

 また、多くの学生たちは避難所や仮設住宅で子どもやコミュニティの支援を行いながら、自分たち地元の学生ができることを模索し続けました。震災によって県内就職が不可能となって涙を流した学生、目の前の子どもたちを放っておいて自分だけが社会に出て行くことが考えられない、と、身を粉にしてボランティアに励む学生たち......、彼ら彼女らの姿を忘れることはできません。


 今も大震災は収束しているわけではありません。処理水の問題が世界的な議論を呼び、「福島」の文字があらゆるメディアを飛び交っています。本学を卒業する今こそ、この福島で学んだ意味、福島大学を卒業する意味を考えて下さい。


 福島は「21世紀的課題が加速した地域」といわれています。福島が抱える課題の解決策は、覚えた公式から導き出せるようなものではく、複雑に絡み合う現実を解きほぐし、新たに「解決策」をつくり出すしかありません。


 明日から始まる新しい生活の場で、「福島大学で何を学んできたのか」と問われたとき、何が語れるのか、自分に深く問いかけて下さい。


 これからの皆さんが、福島大学での学びを誇りにして、ご活躍されることを祈念し、送別の辞といたします。


令和5年9月29日

福島大学長 三浦浩喜

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