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福島大学

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令和4年度(3月期)福島大学学位記授与式「学長送別の辞」

 本日、晴れて「学士」の学位を得た943名の学類生の皆さん、「修士」の学位を得た99名、「博士」の学位を得た2名の大学院生の皆さん、ご卒業おめでとうございます。新しい門出を心よりお慶び申しあげます。

 新型コロナウイルス禍に振りまわされたこの3年間も次第に過去のものとなりつつあり、実に4年ぶりに保護者の前で、学位記授与式を挙行できる運びとなりました。すべての皆様と共に、今日のこの日を喜び合いたいと思います。

 学生にとって、大学時代の証である学修や研究、サークルや友達づきあいなどで、新型コロナウイルスによって数多く変更を余儀なくされました。少なからず悔いの残る学生生活だったかも知れませんが、そのような現実と向きあい続けた4年間は、これからの道のりに必ずやプラスに働くことと思います。

 学類生の皆さんは、現在のカリキュラムに再編された最初の世代、食農学類が新たに加わり、5学類体制となった最初の卒業生となります。その意味では、食農学類第一期生を世に放つ、福島大学の新しい歴史の始まりとして、時代の変化を強く印象づけるものとなりました。

 3年前に福島大学は、「地域とともに21世紀的課題に立ち向かう大学」という新しい目標を掲げました。

 その原点は、いうまでもなく、東日本大震災と、東京電力福島第一原子力発電所事故です。

 12年前の3月のこの日、皆さんが今座っているこの第一体育館の床には、被災地から命からがら避難してきた百数十名が身を寄せる、ダンボールの仕切りが立ち並ぶ避難所でした。本学は、全国で唯一、避難所を設置した大学となり、教員と学生が一丸となって避難者の命を守りました。大学の意地にかけても、避難者に冷たいものは食べさせない、と毎日温かい食事を作り続けました。避難所を運営していたのは、教職員の他に、公共交通機関が寸断され、自宅に帰れなくなった70名ほどの学生でした。その中には、3月25日に、皆さんのように晴れの姿で卒業式を迎えるはずだった4年生も大勢いました。10日間も風呂に入れないまま、就職先のアパートも探しに行けないまま、避難者のお世話を続けていたのです。

 大学の外でも学生のボランティア活動は展開されていました。不安定になった子どもたちを忍耐強く見守る学生、「目の前で困っている人を放って、自分だけが就職していくことは考えられない」と就職試験の直前までボランティアを続けた学生、そうした学生たちの姿が、しっかりと私の目に焼き付いています。

 あれから12年がたち、問題のフェイズは大きく変わりました。人口流出・少子高齢化の中での自治体の再建、復興のための新産業の創出、再生可能エネルギーやALPS処理水の問題。この福島県は、世界的な課題を、一足先に抱えた地域となっています。ここに立地する本学は、まさに「21世紀的課題」に取り組まなければならない大学なのです。

 現在、世界はエネルギーや食糧の供給で、混乱の最中にあります。昨年に始まったロシア軍の攻撃はウクライナの全土に渡り、その悲惨な有様はSNSなどで、リアルタイムに世界に発信されています。恐怖に震える人々の表情、地下壕で疲れ切った避難者、救いを求める人々の長い列は、東日本大震災を彷彿とさせます。本学とウクライナは、原発事故を体験した当事者として共同研究を行い、身近な関係にありました。第二次世界大戦以降、最も大きな戦争となり、冷戦以降築きあげてきた平和を維持する枠組みが、かくも容易に崩壊した事実は、現代社会に生きるわれわれ、誰一人として逃れることはできません。

 世界は常に変化し続けています。それも予測不能で、複雑で、曖昧なものに変化し続けています。大震災や新型コロナウイルス、現在も続くウクライナの悲劇、そこから派生する国際関係の混乱などはその典型です。私たちは危機に直面する度に、ほんとうに大切なものは何か、守るべきものは何かを真剣に考えるチャンスが、与えられます。

 皆さんの多くは4年間もしくは2年間、この福島大学で学びました。新型コロナウイルスのために十分とは言えないまでも、多くのことを得たと思います。人間は多くの場合、自分の経験に即して物事を判断しがちです。これを経験主義と呼びます。人間の経験できる範囲は限りがあり、経験主義は人間を狭い視野の中に閉じ込めてしまいます。大学におけるアカデミックな学びは、この経験主義を克服する唯一の武器です。人間にとって経験はとても重要ですが、その経験を分解して再構成し、経験以上の価値や知見を得ること、福島大学は、まさに震災後の12年間をそのようにして歩んできました。

 卒業生の皆さん、皆さんは、12年前に、わが身を省みず被災者のために頑張り抜いた学生たちの後輩であること、福島大学は、そうした貴重な経験を踏まえて、新しい研究分野を開拓してきた大学だということを忘れないでください。

 これからの皆さんが、福島大学での学びを誇りにして、元気にご活躍されることを祈念し、送別の辞といたします。

令和5年3月24日

福島大学長 三浦浩喜

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