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福島大学

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令和3年度(3月期) 福島大学学位記授与式 「学長送別の辞」

 本日、晴れて「学士」の学位を得た954名の学類生の皆さん、「修士」の学位を得た92名、「博士」の学位を得た2名の大学院生の皆さん、ご卒業おめでとうございます。新しい門出を心よりお慶び申しあげます。 

 新型コロナウイルス禍に振りまわされたこの2年間、 加えて先週の大地震の影響も乗り越え、本日、ここに学位記授与式を挙行する運びとなりました。対面での実施は、本学では実に3年ぶりとなり、皆様と共に今日のこの日を喜び合いたいと思います。学生にとって大学時代の証である学修や研究、サークルや友達づきあいなどで、新型コロナウイルスによって数多く変更を余儀なくされました。これまで、本学のさまざまなコロナ対策にご協力をいただきましたことに、この場を借りて深く御礼を申し上げます。

 皆さんは、現在のカリキュラムに再編される直前の世代、16年間続いた4学類体制の最後の卒業生となります。その意味では、皆さんの卒業は福島大学の歴史の変わり目として、時代の変化を強く印象づけるものと感じています。

 2年前に福島大学は、「地域とともに21世紀的課題に立ち向かう大学」という新しい目標を掲げました。その原点は、いうまでもなく、東日本大震災と、東京電力福島第一原子力発電所事故です。

 11年前の3月下旬、皆さんが今いるこの第一体育館は、被災地から命からがら避難してきた、最大で250人が身を寄せる避難所でした。本学は、全国で唯一、避難所を設置した大学となり、一丸となって避難者の命を守りました。大学の意地にかけても、避難者に冷たいものは食べさせない、と毎日教職員と学生が温かい食事を作り続けました。避難所を運営していたのは、教職員の他に、公共交通機関が寸断され、自宅に帰れなくなった70名ほどの学生でした。その中には、3月25日に、皆さんのように晴れの姿で卒業式を迎えるはずだった4年生も大勢いました。10日間も風呂に入れないまま、就職先のアパートも探しに行けないまま、避難者のお世話を続けていました。

 大学の外でも学生のボランティア活動は展開されていました。不安定になった子どもたちの攻撃を受けながら、じっと耐える学生、「目の前で困っている人を放って、自分だけが就職していくことは考えられない」と就職試験の前日までボランティアを続けた学生、そうした学生たちの姿が、しっかりと私の目に焼き付いています。

 あれから11年がたち、問題のフェイズは大きく変わりました。人口減少・少子高齢化の中でのコミュニティ維持、復興のための新産業の創出、エネルギーや環境問題。この福島県は、世界が抱える課題を、一足先に体験した地域となりました。福島県に立地する本学は、まさに「21世紀的課題」に取り組まなければならない大学なのです。

 そして今、社会の目はウクライナに集まっています。ロシア軍の攻撃はウクライナの全土に渡り、その悲惨な有様はSNSなどで、リアルタイムに世界に発信されています。21世紀に、こんな凄惨な戦争がありうるのかと、誰もが衝撃を受けたと思います。恐怖に震える人々の表情、疲れ切った避難所の様子、救いを求める人々の長い列は、東日本大震災を彷彿とさせます。本学とウクライナは、原発事故を体験した当事者として共同研究を行い、身近な関係にありました。

 そして、冷戦以降築きあげてきた平和を維持する枠組みが、かくも容易に崩壊してしまった目の前の危機は、現代社会に生きる誰一人として逃れることのできない脅威です。毎日流れる生々しい報道から、目を背けてはなりません。

 世界は常に変化し続けています。それも予測不能で、複雑で、曖昧なものに変化し続けています。大震災や新型コロナウイルス、そして現在も続くウクライナの悲劇などはその典型です。私たちは危機に直面する度に、ほんとうに大切なものは何か、守るべきものは何かを真剣に考えるチャンスが、与えられます。

 皆さんの多くは4年間もしくは2年間、この福島大学で学びました。新型コロナウイルスのために十分とは言えないまでも、多くのことを得たと思います。「理解する」ことは3つの段階があります。最初の段階は「感覚的に理解する、なんとなくわかる」というもの、次の段階は「客観的に理解する、構造的にわかる」という段階、これは大学の多くの授業で経験したことと思います。そして最後の段階は「自分が何をすればいいのかわかる」というものです。自分から突き放して理解した問題を、自分事として再び受け入れ、解決に取り組むということです。この福島大学で学んだからには、ぜひ、「当事者として学び、実践する」ことの意味を、改めて自分に問いかけて下さい。

 そして、自分たちは、11年前に、わが身を省みず被災者のために頑張り抜いた学生たちの後輩であることを、決して忘れないで下さい。命と平和を大切にすること、それらを守るしくみを考えること、それを実現するために行動することを、ためらわないで下さい。それが、本学を卒業される皆さんへのお願いです。

 これからの皆さんが、福島大学での学びを誇りにして、ご活躍されることを祈念し、送別の辞といたします。

令和4年3月25日

福島大学長 三浦浩喜

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