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福島大学

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令和2年度(9月期) 福島大学学位記授与式 「学長送別の辞」

 本日、晴れて「学士」の学位を得た27名の学生の皆さん、「修士」の学位を得た4名の大学院生の皆さん、「ご卒業おめでとうございます」。新しい門出を心よりお祝い申しあげます。

 新型コロナウイルス禍で幕を開けた令和2年度も半年が過ぎ、本日、ここに学位記授与式を挙行することができました。

 大学生活の集大成である卒業研究や修了研究、就職活動などが新型コロナウイルスのためにゆがめられ、大切な学友たちとの時間も削がれてしまいました。他の世代とは大きく異なる学生生活となってしまいましたが、無事、今日の日を迎えることができたことを、皆さんともに喜び合いたいと思います。

 昨年末に確認された新型コロナウイルス感染症は、この9ヶ月で世界のあらゆるところに広がり、現在感染者は3,300万人を超え、100万人が亡くなり、多くの国は感染の第二波に苦しめられています。いくつかの都市では再びロックダウンや移動の制限が始まっており、戦後最大の経済の落ち込みは、さらに深刻化することでしょう。密度の濃い人間関係を求めてきたこれまでの文化のあり方も、グローバル化を標榜してきた世界の方向性も、大きく変わりつつあります。

 変化したのはこれだけではありません。皆さんが本学に在学していたこの約5年の間に社会はどのように変わったでしょうか。身近なところでは携帯電話は単なる電話ではなくなり、カメラもビデオも音楽も、映画も、本もゲームも、地図も銀行機能も詰め込まれるようになりました。本学には、5つめの学類、食農学類も誕生しました。国内では、熊本地震や北海道地震、さらに50年に一度と言われる風水害が毎年のように発生するようになり、選挙年齢が18歳に引き下げられ、安保法案が成立したのも多くの皆さんが在学している間でした。時代も平成から令和に変わり、5年間で日本の人口は100万人減少し、老齢化率は2%増加しました。さらに、米国では自国第一主義を掲げるトランプ政権が誕生し、イギリスがEUを離脱しました。中国が世界に大きな影響を及ぼすようになり、米中間の対立が顕著となりました。社会は確実に変化し続けています。

 近代社会は人間の権利が拡張された時代でした。もともと人権とは税金を納めている健全な成人男性にのみ与えられたものでした。しかし、人間のたゆまぬ努力によって、女性の権利をはじめ、労働者の権利、子どもの権利、障がい者の権利、先住民族の権利、性的少数者の権利も認められるようになりました。社会の歩みは、弱者に権利を行き渡らせる歴史だったと言えます。しかし、近年の国内外の動きはこれに逆行し、力を勝ち得たものが権利を独占する風潮に変わりつつあるように見えてなりません。平等と正義を求める社会の倫理は危機的な状況にあると言えるかも知れません。

 「ノブレス・オブリージュ」という言葉があります。「高貴なる者の責任」という意味で、恵まれている者は、そうでない者よりも多くの社会的責任を果たさなければならないということを意味しています。皆さんは高等教育機関で多くの知識や技術を学び、強い力を身につけて社会に出て行きます。その力は自分のためだけに使うのではなく、よりよい社会を創るためにも使わなければなりません。

 とりわけ、皆さんはこの福島大学で学びました。9年と半年前、福島は東日本大震災と原発事故により、悲劇的な地域として世界に知れ渡りました。福島大学は地域の人々と共に、この震災復興を歩んできました。福島は「21世紀的課題が加速した地域」といわれ、福島の課題解決は世界の課題解決ともいわれています。福島の課題を解決する答えは、どこかに転がっているわけではありません。むしろ、答えを探そうとする私たちの努力こそが答えなのかも知れません。この福島で「解のない問い」に挑戦することの意味を学んだとするなら、この学びを是非、多くのところで語ってください。生かしてください。まさにそれが本学を卒業する皆さんの責任です。

 最後になりますが、皆さんはこのコロナ禍で大切な時間を失いましたが、これは一面においては物事を別な視点から見つめる機会だったかも知れません。私たちも、ネットワークを使えば、離れていてもこれだけのことができるということを知りました。大震災後の日本は「人間の絆」が再発見されました。ピンチや逆境は人々を不安に追い詰めますが、それはまた、新しい価値や技術を発見するチャンスでもあります。これからの新しい生活は決して楽なものではないでしょう。しかし、厳しい現実の中にこそ、ものごとと自分が変わっていくチャンスが潜んでいることを忘れないでいただきたいと思います。 これからの皆さんが、福島大学での学びを誇りにして、ご活躍されることを祈念し、送別の辞といたします。

令和2年9月30日

福島大学長 三浦浩喜

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