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福島大学

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平成29年度(9月期) 福島大学 学位記授与式 学長送別の辞

本日、晴れて「学士」の学位を得た23名の学生、「修士」の学位を得た1名の大学院生の皆さん、「ご卒業おめでとうございます」。新しい門出を心よりお慶(よろこ)び申しあげます。大学卒業は、人生の一つの節目(ふしめ)であり、「社会人」としての門出を祝い、皆さんに声援を送りたいと思います。

 東日本大震災と福島原発事故から6年半が経ちましたが、今なお福島県では県内外に5万5千人の住民が避難生活を余儀なくされています。先日、メディアでも大きく報道された福島大学の双葉郡住民実態調査によれば、「生活の困りごと」では、健康・介護について5割、生活費と人間関係がそれぞれ3割以上という高い数字で出ています、さらに「今後の生活について」も7割以上の住民が不安を抱いているとのアンケート結果が出ており、6年半が過ぎ避難解除の地域が広がってきていますが、双葉郡住民の生活環境は厳しいものがあります。

 被災地にある福島大学は、震災・原発事故直後から、様々な支援活動を継続してきました。そして同時に、本学学生に対して震災復興に関われる人材育成教育を行ってきました。具体的には、「ふくしま未来学」の科目群で、「ふくしま未来学入門」をはじめとした大災害や復興支援を学べる科目や「むらの大学」のような南相馬市と川内村の被災地域での実習科目等であります。本学の4年間の学びの中で、大震災・原発事故への関心やかかわり方は、皆さん一人一人異なるでしょうが、本学での学びや経験を今後の人生の中で是非とも活かしてほしいと思います。

最近の2ヶ月は北朝鮮の核実験と度重なる弾道ミサイル発射で日本全土と国際社会が緊張の渦に巻き込まれています。今年7月7日に国連で「核兵器禁止条約」が122カ国・地域の賛成多数で採択され、核兵器のない世界平和を求める世論が多数であるにもかかわらず、核実験や核弾道ミサイル実験が繰り返され、国際社会からの批判と緊張が高まっています。

子供の頃に戦争体験をしたある国の大使を務められた有識者の次のような言葉に「重み」を感じます。「戦時中、空襲に遭いました。防空壕の入り口に焼夷弾が落ち、母が死ぬ思いで火を消しました。いま戦争を知らない人が多すぎると思い、体験者を取材し、本にしました。戦争の真実とは何か。それは『狂う』ということです。普通の人は人を殺せません。だから狂うしかない。‥‥安全保障とは、防衛力を向上させることだと思っている人が多いですが、それは違います。軍事力は安全保障の手段の一つに過ぎない。軍事力よりも外交力、それを実現する国際政治こそが大事です。」

核戦争を挑発するような言動に対して、改めて、戦争の恐ろしさを直視し、あらゆる挑発に乗らない冷静な判断と行動が国際社会に求められています。

 さて、皆さんは、10月から「社会人」としての第一歩が始まります。実社会の中で仕事を持ち、日常生活を円滑に送っていく上で「深い知性」を磨いてほしいと思います。

 ある論者によれば、「『知性』とは『答えの無い問い』に対して、その問いを問い続ける能力のことであり、『知性』の本質は、「知識」ではなく、『知恵』である」といわれています。そして、「『知識』は‥‥『書物』から学べるものであるが、『知恵』は‥‥『経験』からしか掴(つか)めないもの」であるとされています。」「書物を読んで『知識』を学んだだけで、『知恵』を掴んだと錯覚することなく、歳月をかけて経験を積むことによって、深い『知恵』を掴んでいくこと」が大切であると語られています。
 皆さんは、これから社会人として、書物などから学ぶ豊富な知識と併せて、実社会での歳月をかけて「経験」を積み重ね、「深い知性」を持ち、周りから信頼される人間に成長していただきたいと思います。 

 最後に、皆さんが社会の様々な分野で、福島大学での学びをもとにご活躍されることを祈念しまして、送別の辞といたします。

 
平成29年9月29日

福島大学長  中井 勝己

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