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福島大学

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平成28年度 福島大学 学位記授与式 学長送別の辞

梅の花が満開となり春の日差しを感じる中、本日、学位記授与式を挙行できましたことを心から慶びたいと思います。
 本日、晴れて「学士」の学位を得た977名の学生の皆さん、「修士」の学位を得た94名、「博士」の学位を得た1名の大学院生の皆さん、「ご卒業おめでとうございます」。これまでの長い間、皆さんの学生生活を支えてこられました保護者の皆様に対して、深く敬意と感謝の意を表しますとともに、新しい門出を心よりお慶び申しあげます。

 皆さんにとって、大学生活の修了は、人生の一つの節目ではありますが、社会へ巣立っていくという意味で、高等学校までの卒業とは大きく異なるところがあると思います。大学を卒業し「社会人」となる皆さんへ、改めてエールを送ります。

さて、東日本大震災と福島第一原発事故から6年が経ちました。この3月上旬には大震災を振り返る様々な報道がありました。岩手、宮城の沿岸地域では、かさ上げされた造成地に住宅が建ち始めた映像などが放映されていましたが、大地震と津波の脅威を思い出し、身が引き締まる思いです。改めて、被災された方々にお見舞い申し上げます。

福島は、地震・津波に加えて、原発事故があり、多くの住民に避難指示が出され、今でも8万人弱の県民が県内外での避難生活を余儀なくされています。双葉郡を中心とした被災地域では、昨年の葛尾村、南相馬市小高区に続き、この4月には富岡町、飯舘村でも避難解除が行われます。しかし、すでに避難解除された自治体においても、完全に帰還できた住民は僅かで、高齢世代が多く、若い世代が少ないという共通の傾向が見られます。教育、医療、福祉、買い物など生活の基本となるインフラの整備、そして何よりも重要な雇用の場の確保が進まないと住民の帰還が進まないという大きな課題が横たわっています。

大震災と原発事故に見舞われた中での大学生活の4年間で、皆さんはどのような学びがあったでしょうか。多くの学友や恩師との出会いの中で、それぞれの学問分野での学びを極め、将来の自分の進むべき道を見つけられたことと思います。

本学は、平成25年度に「地<知>の拠点整備事業」(COC 事業)に採択され「ふくしま未来学」の取組を展開してきました。その中の科目「むらの大学」では、南相馬市と川内村で2週間の体験実習を行い、市長・村長をはじめ被災地の多くの方々や現場から貴重な学びを体験してきました。また、同じCOC事業科目「ふくしま未来学入門」では、多彩な講師陣をお招きし、地域で実際に行われている取組について話を伺うことで、地域と関わることの素養を身につけ、課題解決型の思考を養うことができたと思います。私もこの2月の最終授業を聴講しましたが、震災・原発事故に関する講師の生の声を聴くことができ、受講した学生諸君も多くのことを学び、感じていると思いました。

また、本学はグローバル人材の養成に力を入れてきました。国際交流センターが中心となって実施している「福島アンバサダーズプログラム」(FAP)では、海外の交流協定校の留学生たちが福島の被災地を視察し、そして本学学生たちが留学生の世話をし、意見交換・交流を行うという「体験型被災地学習」であり、内外からとても高い評価を得ています。震災直後からすでに10回開催してきており、このプログラムに参加したことがきっかけで、海外へ留学する学生も増え、本学のグローバル人材の養成に大きく貢献しています。

この4年間の学びと体験は一人ひとり異なるかも知れませんが、福島大学での学びと体験が皆さんのこれからの生き方、考え方を必ず豊かに、また、深みのあるものにしてくれると信じています。

さて、この1年間で、国際社会の政治経済体制は地殻変動を起こす事態が進行しています。昨年6月に、イギリスがEUから離脱の賛否を問う国民投票を行い、僅差でEU離脱賛成が過半数を超え、イギリスは現在EU離脱の手続きが進められています。1958年のECCの設立から数えれば60年近くなる欧州共同体は、その存在基盤が大きく揺らぎ始めています。

一方、アメリカ合衆国は、今年1月20日に「アメリカ・ファースト」を掲げたトランプ氏が大統領に就任しました。トランプ大統領は、昨年の大統領選挙時に重要な公約として掲げていたメキシコとの国境の壁建設やTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)からの離脱を就任直後に表明し、さらにアメリカ国内でのテロ防止を理由に、イスラム教徒の多い国からの入国を禁止する大統領令を発布し、国内外に大きな混乱をもたらしています。

近代市民革命以降築いてきた自由と民主主義が大きな危機に直面しています。多発するテロ事件や紛争が続くシリアの惨状は、改めて「平和の尊さ」を私たちに教えています。私たち一人ひとりが、自由、平等そして平和の尊さを自覚し、それらを守る努力を続ける必要があるでしょう。

さて、皆さんは、間もなく社会人としての新しい生活がはじまりますが、そのなかで特に「他人事」ではなく「自分事」として物事を考え、行動する姿勢を持ってほしいと思います。社会人として、職場、家庭、地域などにおいて日常生活を送っていくうえで、様々な環境の変化があります。その中で、他人任せにしないで「自らの事」として、様々な課題に取り組んでほしいと思います。「自分の事」であるという「当事者意識」をもち物事を考え、行動する姿は、周囲からの信頼を築き、皆さん一人ひとりの社会人としての成長につながっていくと思います。

最後に、皆さんが福島大学での4年間の学びを基礎に、様々な分野でご活躍されることを祈念しまして、送別の辞といたします。

                                                                                                                       

平成29年3月24日
福島大学長 中井勝己

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