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福島大学

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平成27年度 福島大学 学位記授与式 学長送別の辞

吾妻山の残雪も消えはじめ、白梅の花が満開に咲き誇る中、本日、学位記授与式を挙行できましたことを心から慶びたいと思います。
 本日、晴れて「学士」の学位を得た941名の学生の皆さん、「修士」の学位を得た81名、「博士」の学位を得た2名の大学院生の皆さん、「ご卒業おめでとうございます」。これまでの長い間、皆さんの学生生活を支えてこられました保護者の皆様に対して、深く敬意と感謝の意を表しますとともに、
新しい門出を心よりお慶び申しあげます。

 皆さんにとって、大学生活の修了は、人生の一つの節目(ふしめ)ではありますが、社会へ巣立っていくという意味で、高等学校までの卒業とは大きく異なるところがあると思います。大学を卒業し「社会人」となる皆さんへ、改めてエールを送ります。

 さて、東日本大震災と福島第一原発事故から5年が経ちました。この3月上旬には大震災5周年の様々な報道がありました。岩手、宮城の沿岸地域では、かさ上げ工事や巨大防潮堤の映像が放映されていましたが、5年の歳月が過ぎても被災地域の復旧・復興はまだ道なかばという印象を強く受けました。改めて、被災された方々にお見舞い申し上げます。

 福島は、地震・津波に加えて、原発事故が加わり、多くの住民に避難指示が出され、今でも約10万人が県内外での避難生活を余儀なくされています。ちょうど1年前に常磐自動車道が全線開通し、先日はJR常磐線の不通区間再開のための工事が着工されたという明るいニュースも届きました。昨年9月には全町避難指示の町村で初めて楢葉町が避難解除され、帰還へ向けた大きな励みとなりました。
しかし一方で、原発敷地内の汚染水問題、放射線量が高くて近づけない原子炉もまだあるなど、依然として原発事故は収束していない現実があります。そして5年という時間の経過の中で、福島で起こったことを忘れてしまう「風化」現象と、5年が経って厳格な安全検査がされていても、福島の県産品は買わない、食べないという「風評」被害が続いています。

 大震災と原発事故に見舞われた中での大学生活の4年間で、皆さんはどのような学びがあったでしょうか。多くの学友や恩師との出会いの中で、それぞれの学問分野での学びを極め、将来の自分の進むべき道を見つけられたことと思います。
 本学は、平成25年度に「地<知>の拠点整備事業」(COC 事業)に採択され「ふくしま未来学」の取組を展開してきました。その中の科目「むらの大学」では、南相馬市と川内村で2週間の体験実習を行い、市長・村長をはじめ被災地の多くの方々や現場から貴重な学びを体験してきました。また、国際交流センターが中心となって実施している「福島アンバサダープログラム」(FAP)では、海外の交流協定校の学生たちが福島の被災地で学び、そして本学学生との意見交換・交流を行うという「被災地体験学習」であり、内外から高い評価を得ています。

 また、学生諸君が中心となった様々なボランティア活動が行われてきましたが、今年度は、特にサークル団体「災害ボランティアセンター」の「いるだけ支援」がメディアでも大きく取り上げられました。高齢者が多い仮設住宅に学生2人が3か月間住み続け、被災者と一緒に生活するという活動であります。昨年12月に学長室でその活動について学生たちから直接聞きましたが、とても素晴らしいもので私も感嘆いたしました。

 この4年間、積極的に震災と復興支援にかかわってきた学生もいれば、特にかかわらないで4年間過ごしてきた方もおられるかと思います。私は、かかわり方は人それぞれで構わないと思います。ただ、皆さんに共通しているのは、震災・原発事故からの復旧・復興途上にある福島の地で大学生活を過ごしたことです。この4年間の学びと体験は一人ひとり異なるかも知れませんが、福島大学での学びと体験が皆さんのこれからの生き方、考え方を必ず豊かに、また、深みのあるものにしてくれると信じています。

 「平穏な生活」が一瞬に奪われてしまうという意味では甚大な自然災害や大事故と同じですが、トルコのアンカラやイスタンブール、数日前には日本人も巻き込まれたベルギーのブリュッセルでの爆弾事件に見られるように、国際社会においてテロ攻撃の恐怖が高まっています。一瞬にして、人々の生命(いのち)や「平穏な生活」を奪われるという意味では自然災害と共通していますが、テロ行為はあくまで人為的(人の仕業)であり、断じて許すことはできません。また、紛争国シリアを追われ人々がヨーロッパに押し寄せている難民問題が、国際社会が緊急に対応しなければならない人道上の課題であります。改めて「平穏な生活」すなわち「平和な暮らし」の尊さを自覚し、私たち一人一人がそれを守り、取り戻すための普段の努力が必要であると言えるでしょう。

 さて、皆さんは、間もなく社会人としての新しい生活がはじまりますが、そのなかで特に「耐え忍ぶ力」「くじけない力」を身につけてほしいと思います。これまでの学校生活とは異なって、現実の社会は、時として不条理で納得のいかないことにも我慢しなければいけないことがあります。明らかに相手方に非があるにも関わらず「お客様」である以上、「謝り続けなければならい」状況もあるでしょう。理不尽なことにも「心が折れない」たくましい精神を身につけてください。「耐え忍ぶ力」は上司や同僚そして家族がきっと高く評価してくれるはずです。そして、そのような力は、皆さんの人生を脛く(つよく)豊かなものにしてくれるでしょう。

 最後に、皆さんが社会の様々な分野において、福島大学での学びを土台に、ご活躍されることを祈念しまして、送別の辞といたします。

平成28年3月25日 
福島大学長 中井勝己

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