■ 平成25年度9月期 福島大学学位記授与式|学長送別の辞 2013.9.30

 晴れて学士の学位を得た27名の学生諸君、修士の学位を得た5名の大学院生諸君、卒業そして修了おめでとう。心からお祝いいたします。皆さんにとって、今日の学位記授与式は、人生の一つの節目であり、新たな挑戦への始まりでもあります。厳しく変化する時代ではありますが、福島大学で身につけた自ら学ぶ習慣とやり抜く行動力、そして学習努力の成果を、これからの新たな生活の中で実践して、それぞれの夢に向かって挑戦して欲しいと心から願っています。


 複合災害から2年半が経過しましたが、未だ明るい未来がはっきりと見えない状況が続いており、心が痛みます。しかし、皆さんは、厳しい現実を体験したので、本日は新たな気持ちでこのスタートを受け止めていると思います。大きな変化があった時には、人間は冷静ではいられません。そのため、平常時には決して見られない人間の醜さや、或いは人間の強さが顕著に表れると言われています。
 広い意味では、私たちが受けたこの大災害は、「自然災害に起因する大きな痛い体験」と言えましょう。しかし同時に、人間の良さや強さが倍増される時でもあることを皆さんはすでに体験したわけです。厳しい体験をしたことで、私は、皆さんには知らず知らずのうちに「体験から学んだ知恵」が身についていると信じています。この天災・人災による複合災害の体験を、これからの自分にとってプラスと受け止めて行動するか、マイナスとするか、君たち自身の心構えに掛かっています。
 皆さんは本日福島大学を卒業し、新たなスタートを始めますが、これから新しい自分の道を切り拓いていくことでもあります。皆さんは、自分で自由に使える時間があり、一生の内で、最高に多感な青年期を、実社会の政治や経済から少し距離を置いて、この「福島大学という社交空間」で過ごしました。毎日の講義以外の大学での生活、学生食堂での食事の間の何気ない友との会話、クラブ活動や大学祭などのイベントで、多くの人々との出会いと交流、あるいはアルバイトで学んだ人間関係など、福島大学で学生生活を過ごした人は、「福島大学特有の生活態度」を身に付けそれを日常生活の中に活かしているのだと思っています。これからは、「自分が先頭に立たなくてはならない」、つまり、他人とは違う、世界でたった一人の自分の夢の実現のために行動することであり、誰もやっていないことに立ち向かう、挑戦することになります。でも、言い換えると、自分自身が世界で初めて挑戦するチャンスが他人よりもずっと多くあるということでもあるのです。「福島大学特有の生活態度」を身に付けているのだ、しかも、「痛い体験から得た知恵」を活用する勇気も備わっているのですから、何事にも臆せずに挑戦して欲しいと心から願って応援し続けます。
 とは言え、皆さんの前途は必ずしも平坦な道ではありません。現代社会の諸問題は、そのいずれをとっても、一つの学問分野の知見のみで適切にその全体像を把握することは困難であり、異なる利害・異なる価値観が激しく衝突する性格を有しています。そんな時こそ福島大学での経験に裏打ちされた能力、特にコミュニケーション力を上手に活用して下さい。コミュニケーションとは、一方的に話して情報伝達をすることではなく、自分とは異なる意見、感覚を持つ相手の意見を「聴く」能力こそが大切であることを思い起こしてください。異文化コミュニケーション・ギャップや世代間コミュニケーション・ギャップを乗り越えるための対話術や説得術などの獲得には、こころの余裕ばかりでなく、新鮮な発想や思考の柔軟性がとても重要です。そうした能力を身につけるためには、自分の趣味を深めるとか、旅や読書をはじめ芸術作品を鑑賞することが効果的だそうです。そうした習慣を身につけることは、「感性」を磨くことでもあり、挫折や苦難を乗り越える精神の強さを育てるためにも大変重要であるとも言われています。私自身も、新たに起こる難題をより良く解決するために、絵画制作や多くの映画を観ることを習慣に取り入れ、精神の均衡を保ち、絶えず、新鮮な考え方や発想を身につけ大学運営を行うよう努力しております。


 これまでに本学を卒業した約5万人の卒業生たちも、皆さんと同じように、「本学で楽しい学生生活を送れて良かった」という思いを拠り所として、民間企業において、地方及び中央の行政機関において、また、教育の現場において、その他社会の様々な分野において、活躍しております。


 卒業生の皆さん、未曾有の大災害の体験を、前向きに、明るい未来を再興する契機と受け止め、そして、これからは社会人として、福島大学で身に付けた「福島大学特有の生活態度」を活かし、さまざまな課題に挑戦しようではありませんか。
 それでも、皆さんが、社会に出て、いろいろな問題に遭遇し、相談したいことがあれば、いつでも母校である福島大学の門を叩いて下さい。福島大学は、これからも、引き続いて、卒業生との繋がりを大切にしていきたいと考えております。


 「ご卒業おめでとうございます。」以上をもって送別の辞といたします。



平成25年9月30日

福島大学長 入戸野 修