■ 平成25年度10月期 福島大学入学式|学長歓迎の辞 2013.10.01

 新入生の皆さん、大学院に入学おめでとうございます。

 皆さんは、福島大学始まって以来2回目の10月入学生になります。

 大学院共生システム理工学研究科に入学された皆さんは、入学試験の難関を突破して福島大学への入学を果たしました。それぞれが、これまでの目標を達成した喜びに溢れていることと思います。皆さんの入学に対し、福島大学構成員一同を代表してお祝いするとともに、皆さんが本日から福島大学の構成員の一人として加わることに、心から歓迎の気持ちを伝えます。

 ところで、皆さんは震災災害と原発事故による複合災害の厳しい体験を何とか乗り越えてきたのですから、大きな立ち直る力、回復力を身に付けて以前よりもずっとずっと前向きに進んでいこうとする力が強くなっていると言えましょう。

 大きな災害を受けた福島県にある福島大学としては、そうした厳しい体験を何とかプラスに生かした教育研究環境を用意すべく努力しています。一昨年に設立した「うつくしまふくしま未来支援センター」そして、この7月1日設立した「環境放射能研究所」はまだ、正式な建物はありませんが、外部から各分野の専門家を迎え、具体的な福島県の再生復興への活動を展開しています。皆さんは、この「うつくしまふくしま未来支援センター」や「環境放射能研究所」に自主的に参加活動することで、皆さんが福島大学で勉強した専門分野の知識や技術を、実際に地域の再生復興に役立て実践力に結びつける教育研究環境としても活用できます。ですから、皆さんも自分の専門分野をさらに深めることができるとともに、実際の現場に接することにより、今、何が本質的に重要かを見極めることができると思います。


 大学院では専門分野の知識や技術を高度化して身に付けることは当然ですが、その先の自分の職業、働き場所をどう選択するかについても心を配りながら、日々の研究を深めることが重要です。

 私たちを取り巻く社会は激しく変動しており、世界の局所的な激変が瞬時に地球全体に反映される、急速なグローバル化の時代になりました。したがって、業界・企業にもよりますが、人材として求める資質・能力について、様々なことが求められています。ここで紹介するのは、必ずしも技術系学生を対象にしたものではありませんので、将来研究者・技術者を希望している皆さんにも、あてはまる人材像であるかと思いますが、参考までにお話します。

 たとえば、現在の企業で必要とされる能力として、「チャレンジ精神」、「チームワーク力」、「コミュニケーション力」、「リーダーシップ力」、「主体的行動力」、「グローバル素養」が特に重要だと言われています。これらの能力には、10〜20年前に求められた「協調性」「調整力」「業務処理能力」といったこととは違い、個人の 素養・能力が重要視されていると言えます。

 ここでいう必要な能力は、どれも抽象的な表現であるのでわかりにくいので、「コミュニケーション力」を例として話ますと、最もポピュラーな意味は「愛想が良いとか、人当たりが良いということではなく、論理的思考力に裏打ちされた説明能力のある人」のことなのです。例えて言うと、ある商品あるいは物件を相手に買ってもらいたいとき、「相手が外国人であろうと、日本人であろうと、自分で信じる価値、あるいは品物の良さを相手の立場に立って、必要な情報を確実に伝え、お客が気付かなかった解決策を提案し、納得してもらえるよう説得する力」ということもできます。単に、外国語、特に英語が話せるということでもないのです。このことは、「グローバル素養」とも関連していますが、TOEICなどの点数が高くなくても、物怖じしない、ここで言う「コミュニケーション力」を持ち、どこへでも飛んで行ける「度胸を備えた能力」が重要だと言うことです。その際、大学院で身に付けた専門分野の特性を活用するとともに、国とか人種を超えた考え方、つまり「異文化受容能力」を高めておくことも重要でしょう。そんなわけで、どの企業も、海外であっても日本と同じように仕事ができる人をグローバル人材として定義して、積極的に採用するわけです。

 大災害を受けた福島大学としては、災害復興に関わる活動への参加を通じて、地域の問題ばかりでなく世界の問題にも、さらに、リスクと人類が共存するグローバル化が進む社会での困難な問題にも専門分野の枠を超えた思考力を武器に果敢に挑戦する、実践力・問題解決力を習得した人材を育成したいと考えています。皆さんが、人間味のある、そして人と共感し合い、心を掴み、人を動かす資質を身につけた確かな力と行動力のある頼れる各界のリーダーとなることを、教職員一同心から応援しています。


 ともかく、こうした能力は、大学・大学院の研究や講義だけで培えるものではありません。日々の努力を通じて、いろいろな「本」を読んだり、「絵画や映画鑑賞したり自主的にそうした能力を磨く・鍛錬する習慣を身に付けることが大切だと思います。

 そんなことを意識して、「国際化の進むこれからの社会において、英語の力を身につけなくて大丈夫だろうか?」「自分の強さと弱さを分析し、自己理解ができているか?」など大学院に入学した今だからこそ、再度自分に問うてみる必要があるのでないでしょうか。


 最後に、もう1つ重要なことをお話します。大学は教育の場でありますが、与えてくれる場所ではなく「自ら学び取る場所」であります。福島大学が皆さんに与えるものには、いろいろありますが、最大の資源は「時間」であります。学部時代とは違い、大学院では短い2年間です。ですから、大いに心を引き締めて、効率的にその「時間」を使い、大学の持てる知財・人材・物的資源を積極的に活用して自分の付加価値を積み重ねて欲しいと願っています。自分にとっての大学院とはどんな意義を持つのか、自分なりの答えをできるだけ早く見出し、「学ぶ楽しさ」と「遊ぶ楽しさ」のバランスのとれた大学院生活を過ごしてください。皆さんが実りある大学院生活を過ごせるよう願っています。


 「入学おめでとう!」以上を以て歓迎の辞といたします。


平成25年10月1日

福島大学長  入戸野 修