■ 平成25年度4月期 福島大学入学式|学長歓迎の辞 2013.04.04

 新入生の皆さん、入学おめでとうございます。

 皆さんのご入学に対して福島大学の構成員一同を代表してお祝いするとともに、皆さんが今日から福島大学の構成員の一人として加わられることを心から歓迎いたします。また、これまで学業を支えてこられましたご家族の皆様に心から敬意を表したいと思います。


 学類に入学された皆さんは、入学試験の難関を突破して福島大学への入学を果たしました。また、大学院の修士課程と博士後期課程に進学或いは入学された皆さんは、さらに自らの学問を究めようと入学を果たしました。それぞれが、これまでの目標を達成した喜びに溢れていることと思います。皆さんは、2年前、M9.0と言う未曾有の東日本大地震とそれによる原発事故に遭遇し、とても大きな辛い体験をしました。しかし、同時に、人間のすばらしさや人間の持つ強さには計り知れないものがあることを再認識したのではないでしょうか。また、震災前の社会には、自分さえ良ければ良いとする考えや相手への思いやりや優しさが失われているかのような風潮がありましたが、今回の大震災はそうしたことに対しても、私たちに「本当にこのままで良いのか?」など多くの問題を投げかけました。皆さんはそうした辛い環境の中で大学受験という当面の目標に向かって、この厳しい体験を何とか乗り越えてきたのです。辛い体験からも立ち直る力を体得し、以前よりもずっとずっと目的意識を持って前向きに生きていこうと思う力が強くなっていると、私は確信しています。

 さて、皆さんは、憧れていた大学生になり、有意義な大学生活を過ごしたいと思っていることでしょう。しかし、皆さんのための「自分の道」が用意されている訳ではありません。ただ、はっきりしていることは、大学には教育熱心な教員がたくさんいると言うことと、大学に入学した今、皆さん一人ひとりが、大学が自分にとってどんな意味を持つかを自問自答しながら「自分の道」を見つけなければならないということです。「自分の道」は、「自分は一体何をしに、この世に生まれてきたのか」、つまり、「人生の目的」とも関係します。しかし、「人生の目的」は生まれながらに用意されているものではありません。ですから、「自分の生活を支えている基盤となるもの、つまり生活の軸」が「自分の道」であるとも言えます。生まれた以上、人として何をなすべきかを問い、それぞれの生活の中で、自分自身で「自分の道、つまり生活の軸」を見つけ出さなければならないのです。

 「生活の軸」とは、コマが廻っている様子を想像して下さい。軸がしつかりしているときは、コマは快調に回っており、安定感があります。いつものように生活が調子良くいっているときは、軸はしっかりと定まっているのです。しかし、 「どうも自分の思っているようには調子が良くないなあ・・・」と感じる時は、軸が定まっていない証拠です。軸の安定と生活の動きは互いに強く関係していますので、毎日の生活で自分の得意なこと、あるいは好きなことを定期的に継続し続けることで、「自分の生活の軸」は何なのか、そしてその安定性を取り戻すにはどうすれば良いかを体得することになります。例えて言うと、仏道修行の世界では、それらは「座禅」や「経を読む」ことに没頭することで得られるそうです。福島大学に入学した皆さんにとっては、大学生活、つまり正課の学習活動と課外活動の中に自分の生活を置いて、その継続的な日常活動の中に、「遊ぶ楽しさ」と「学ぶ楽しさ」のバランスのとれた生活スタイルを早く作りあげ、自分に最適なやり方で「自分の生活の軸とその安定化」を図れるよう努めてください。

 皆さんの心に留めて置いて欲しい重要なことをお話します。大学は「自分のすごさ、つまりこれまで自分では気が付かなかった潜在能力」を気づかせてくれる場所であること、そして、卒業時に「この大学で学んで本当に良かった」と真に思えることなのです。中学校や高等学校は、将来に備えて体力や脳を鍛えるために勉強という「訓練」をする場所だったのです。それに対して、大学は、自らの力で、「自分のすごさ」を見つけるところと言えます。ですから、大学や自分に対する先入観や偏見を捨て、頭を白紙にして、入学した福島大学での学び中心の生活に素直に専念し、その中からに自分にとって最適な学びの方向を見出すのが一番の近道と言えます。

 福島大学は、1つのキャンパスに人文社会科学系と理工学系があり、文系と理系の両面の教育研究環境を持っているのが、他の大学にない大きな特徴です。ですから、学内には、文系・理系の枠組みを超えた新しい価値観による知的営みが、正課活動はじめ課外活動の中で展開しています。したがって、大学生活を通じて、様々な人と出会い、悩み、戸惑いながらも自己を確立し、人間的に成長することができます。その中で、異なる意見や異なる価値観への理解を図る術を体得し、さらに自分を大きく育てていってください。他者の考え方を承認することは、自分の考え方を曲げることではありません。自分が相手を承認することで、相手も自分を受け入れてくれるでしょう。この相互の「共感」意識は、自分にも他者にも、信頼という生きる力を与えてくれるのだと思います。

 ここで、先輩たちの活動を一部紹介させてください。福島大学では、震災直後に構内に避難所を設置し、多くの学生がその運営に関わってくれました。その後も学生が中心となって、学生団体福島大学災害ボランティアセンターを立ち上げ、避難所や仮設住宅でボランティア活動をしたり、県内外の大学生との支援ネットワークを立ち上げ、その活動の幅を広げています。さらに、各自の専門分野で学んだ理論を活かし、自発的かつ積極的に実践活動を展開することで、地域社会に貢献しています。

 これが、「福島大学は、学生が主役の大学づくり、そして社会の評価に応える大学づくりを目指す教育重視の人材育成大学である」と言う意味なのです。福島大学は、復興支援活動を通じて、地域の問題ばかりでなく世界の問題にも、さらに、リスクと人類が共存するグローバル化が進む社会での困難な問題にも、果敢に挑戦する実践力と問題解決力を身に付けた人材に皆さんを育てたいと考えています。皆さんが、人間味のある、そして人と共感し合い、心を掴み、人を動かす資質を身につけた確かな力と行動力のある頼れる各界のリーダーとなることを役員・教職員一同、心から応援しています。

 最後に、大学は学ぶ教育の場でありますが、大学は与えてくれる場所ではなく「自らが学び取る場所」です。大学時代は、人生の中でも最も束縛が少なく自由で、しかも、「自分で使える時間がある」時期です。その時期を如何に活かすか、失敗や成功の体験が、社会人として、大きく成長するための重要な要素となってきます。しっかりと正課および課外活動に取り組むとともに、できるだけたくさんの本、小説でも、古典でも、雑誌や漫画でも良いです。読書を通じての仮想的な世界の擬似体験は自分の夢を描くのに役立ちます。夢を抱くことは人に大きな力を与えます。その夢の実現をサポートしてくれるのが大学です。そのためにも、大学の持てる知財・人材・物的資源を大いに活用して欲しいと願っています。


 「入学おめでとう!」以上を以て学長歓迎の辞といたします。


平成25年4月4日

福島大学長  入戸野 修