■ 平成23年度福島大学「新入生を迎える会」|学長歓迎挨拶 2011.05.09

 新入生の皆さん、入学おめでとう ございます。

 皆さんのご入学に対して 福島大学構成員一同を代表してお祝いするとともに、皆さんが本日から 福島大学の構成員の一人として加わることに対して 心から歓迎します。

 学類に入学された皆さんは、入学試験の難関を突破して福島大学への入学を果たしました。大学院に進学或いは入学された皆さんは、さらに学問を究めようと入学を果たしました。それぞれが、これまでの目標を達成した喜びに溢れていることと思います。 最近の脳の働きの研究によると、人間は目標が達成された時には、一時的に脳の働きが低下するとも言われています。皆さんは 今、入学するという目的を達成しましたが、是非普段通りの学びの生活を早く取り戻して、新たな気持ちで福島大学での生活に備えて下さい。


 さて、新入生を迎えるにあたり、私たちは、この3月に遭遇した千年に一度の大地震と大津波の災害に触れない訳にはいきません。不幸にして命を亡くされた多くの方々に心からの哀悼の意を表するとともに、今なお不自由な生活におかれている方々に、心よりお見舞い申し上げます。

 私たちの体験した東日本大震災は、日本にとっては明治維新、第二次世界大戦に次ぐ、第三の転換期であると言えます。戦後の復興は、それを担う人材に依存するとして、初等中等教育の充実によって成し遂げられたと言われています。とすれば、「ポスト3.11」の日本復興には、次世代を担う皆さんのための大学教育が出番となるものと期待されています。戦後の復興は、一貫して経済復興を旗印に、社会の各分野で「効率化・合理化」を優先して進められました。今回の震災原発事故、それは天災と人災による複合災害でありますが、これまでの考え方に対する一種の「警鐘」であると私は受け止めています。

今こそ、文明の転換点と捉え、「人間性を基本に据える視点からの行動原理」の下に、社会制度やシステムを抜本的に見直し、必要な改革を積極的に進める必要があるのではないかと思います。豊かな教養と専門性に裏打ちされた、組織や慣例に縛られない賢明な判断力と建設的な批判力、そして果敢な行動力が、危機を乗り越えチャンスに変えるための重要な資質として期待されています。大学こそ、そうした「囚われない自由な発想に基づく生き方の術」を育むことができる場所です。

 福島大学は、主役の学生の立場に立つ大学づくり、教職員が働きがいを持てる大学づくり、そして社会の評価に耐える大学づくりを目指す教育重視の人材育成大学です。人文社会科学系と理工学系が1つのキャンパスにあり、文系・理系の両面での教育研究環境を有しているため、文系・理系の壁を超えた新しい価値観による知的営みを展開しています。ですから、皆さんは、低学年の授業科目を通して、文系と理系の枠を超え広い教養、社会や政治、そして自然現象の理解をはじめエネルギー問題や環境問題などを学ぶことができます。


 福島大学の学生生活で特に身につけて欲しいのは、自ら進んで学び続ける習慣と長期間にわたって役立つ、時代の変化にも対応できる基礎的な能力です。そのためには、授業ばかりでなく、さまざまな正課外活動にも積極的に関わることが大切です。第一線で活躍するためには、新しいものを学ぶ意欲と難しい課題に挑戦し解決方策を見出す能力が必要です。大学生活での様々な体験を通して、柔軟な思考力と積極性を身につけてください。

 皆さんは携帯電話やインターネットから情報収集することに慣れていると思います。情報の収集力は大切な、新しいタイプのコミュニケーション力と言えます。しかし、情報はますます膨大になりますので、「自分はどの情報を信用するか」という情報を選抜する能力、これを「ソーシャルフィルター」能力と呼ぶそうですが、この能力も身につけて欲しいと思います。

 また、「地域から学ぶ」という視点も大切なポイントです。国際社会で活躍する人材に求められる能力というのは、とかく語学力が挙げられることが多いのですが、まずは自分の考えや立脚点を臆することなく主張できる能力が必要です。その能力を身につけるためには、地域に目を向けることです。地域は学びの宝庫なのです。地域に目を向けることにより、環境問題、高齢化社会、エネルギー問題、経済問題、こうした様々な事を学ぶことができます。

 福島大学は、この度の天災・人災により引き起こされた地域の課題の解決に挑戦すべく、「うつくしまふくしま未来支援センター」を設立しました。ここでは、人文社会科学と理工学を融合した、従来の概念枠に囚われない視点で、地域と大学が協働連携し、様々な課題の解決を通して地域復興に取り組みます。皆さんもそうした取り組みのフィールドワークに進んで参加することで、地域に積極的に関わり、多くの実践的な力を身につけて欲しいと思っています。


 大学はいろいろな出身、文化を持った学生が集まり、互いに刺激しあって成長する場です。正課活動や正課外活動を通じて、様々な人と出会い、悩み戸惑いながらも自己を確立し、人間的に成長することができます。その意味で、大学は与えてくれる場所ではなく「自らが学び取る場所」でもあります。大学時代は、人生の中でも最も束縛が少なく自由で、それゆえにカオス的時期、つまり混沌とした時期でもあります。しかし、その時期を如何に活かすか、失敗や成功の体験が、社会人として、大人として成長するための重要な要素となってきます。自分にとっての大学とはどんな意義を持つのか、自分なりの答えをできるだけ早く見出して、「遊ぶ楽しさ」と「学ぶ楽しさ」のバランスのとれた大学生活を過ごしてください。皆さんが実りある大学生活を過ごせるよう、願っています。


 以上を以て新入生を迎える会の挨拶といたします。


平成23年 5月9日

福島大学長  入戸野 修